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【 タロットを使用する前に 】

タロットは聖なる存在と繋がるための神聖な道具です。

タロットカードは自分の心と対話するための道具であり、目に見えない存在からのメッセージを受け取る神聖な儀式という側面があります。少なくとも心と繋がる道具としてタロットを扱う以上は、タロットコーチングを始める前に心と環境を整える準備をする必要があります。

① タロットカードを聖別する

新しいカードを手に入れた時は、お香の煙にくぐらせて浄化する必要があります。お香がない場合は、カードの上に右手を置き、紫の炎にカードが包まれたと観想することによっても浄化することができます。このような浄化はできれば定期的に行うのが好ましいでしょう。

② 心身を清める

神社などでも参拝する前には手を洗ったり、口を濯いだりします。水で手を洗うというのは、自分の手を清めると同時に聖なる存在に敬意を払うという意味合いがあります。タロットコーチングを行う際には最低限心掛けたいことです。また、当たり前のことですが、部屋が散らかっていれば心が集中することも難しいでしょう。部屋の片付けや空気の入れ替えをするなど事前にしておくと心身の浄化に役立ちます。

③ グラウディングを行う

グラウディングとは、地を足につけて生きることを意味しています。グラウディングがしっかり成されていないと、実生活において、耳心地のいいことばかりに心が惹かれてしまい、現実的な行動力の伴わない人生となってしまいます。タロットコーチングには自分の智慧を越えた目に見えない存在からのメッセージを受け取るという要素がありますので、受け取る側の心が揺れ動いていると現実に活かせるようなメッセージを受け取りにくくなります。グラウディングがしっかりできていないと、聖なる存在ではない悪質な霊の影響を受けたり、幻想の世界に逃避して的外れなコーチングになりがちです。コーチングの結果を実生活に生かすためには、しっかりとしたグラウンディングをしておく必要があります。

グラウディングには様々なやり方がありますが、以下に代表的な方法を示します。

《グラウディングの一例》

目を閉じ、ハートに意識を集中します。ハートに光の玉をイメージし、その光の玉から光のロープのようなものが出て来て、自分の会陰にまで光のロープが下降します。さらに自分の会陰から光のロープが下へと伸びていき、地上から内部まで進みます。やがて地球の中心まで到達して、自分と地球が中心においてしっかりと繋がっているということをイメージします。それでグラウディングは完了です。

④ 自分が信頼する存在に委ねる祈りを捧げる

タロットコーチングを行う前には、自分が信頼できる存在、天使や大いなる存在(神)に自分を守護してくれるように祈ります。またそのような祈りが通じたと感じたなら、その存在を信頼し委ねるという態度が必要です。コーチングの妨げになる不必要なエゴや感情を退け、自我を空(くう)に保つ上で必要な意図と言えます。

*祈りの一例

「タロットの聖霊に委ねます。今ここに聖なる道をお示しください。我々がその道を迷うことなく進めるようご加護を願います」

⑤ クライアントがある場合は、クライアントと繋がるための祈りを捧げる

クライアントがある場合には、クライアントのためのコーチングであることを意図しましょう。クライアントの心と繋がるための準備が必要です。クライアントのハイアーセルフ※注と自分のハイアーセルフを繋げ、クライアントのハイアーセルフに敬意を表すると意図するだけで繋がります。ただ気を付けなければならないのは、クライアントが何を望んでいるのかを意図すると、クライアントの思考と繋がり、コーチングが相手の望む方向へ進んでしまいます。それではクライアントにとって本当に必要な導きとならない場合があります。クライアントの心(無意識領域のハイヤーセルフ)に繋がるには、ただクライアントのハートに繋がると意図するだけで可能です。また、実際に自分のハートとクライアントのハートが繋がっているとイメージするのも良いでしょう。

上記の事柄について、すべてを行わなければならないというわけではなりませんが、このような心掛けはある程度必要となります。環境や心の状態というのは、タロットコーチングに大きな影響を与えます。実際に体験すると理解できることですが、メッセージの正確さやインスピレーションの的確さは何もしない場合ときっちりと場を整えた場合では明らかに差が生じます。どこまで環境を整えるのかは人それぞれですが、何事もまずは心を整え、場を整えるという意識が大切です。

  • 注:ハイアーセルフ

通常「高次の自己」と訳される。それは宇宙の源(一なる至高の根源)から生まれた本体と、この三次元世界に存在している自分との間を繋ぐ様々なレベルの高次の自分と云われている。

  【 大アルカナについて 】

大アルカナは人間精神の旅路を表しています。

大アルカナとは、タロットデッキ78枚のうち主要な22枚のことをいい、アルカナはラテン語で「秘儀」という意味です。大アルカナは、象徴的なシンボルによって伝説や神話、哲学、宗教などを想起させ、人の心象に様々なインスピレーションをもたらします。

大アルカナ以外の56枚のカードのことを小アルカナと言いますが、占いとして使用されることがあまりありません。大アルカナと小アルカナを併せた一組のタロットカードのセットをデッキと呼びます。

本書においては、主にこの22枚の大アルカナカードを取り扱い、インスピレーションの補助となる背景知識なども併せて解説してゆきます。

大アルカナは、番号のない愚者から21番の世界まであり、これらは人間の魂の成長過程を表しているとされています。

  • (0番) LE MAT:愚者
  • Ⅰ (1番) LE BATELEUR:魔術師
  • Ⅱ (2番) LA PAPESSE:斎王(女教皇)
  • Ⅳ (4番) L’EMPEREUR:皇帝
  • Ⅴ (5番) LE PAPE:法王
  • Ⅵ (6番) LAMOVREVX(L’AMOUREUX):恋人
  • Ⅶ (7番) LE CHARIOT:戦車
  • Ⅷ (8番) LA JUSTICE:正義
  • Ⅸ (9番) L’HERMITE:隠者
  • Ⅹ (10番) L’A ROVE DE FORTVNE(L’A ROUE DE FORTUNE):運命の輪
  • Ⅺ (11番) LA FORCE:力
  • Ⅻ (12番) LE PENDU:逆さ吊り(吊るされた男)
  • XIII (13番) 死神(13番)
  • XIV (14番) TEMPERANCE:節制
  • XV (15番) LE DIABLE:悪魔
  • XVII (17番) LE TOIILE(L’ETOILE):星
  • XVIII (18番) LE LUNE:月
  • XⅤIIII (19番) LE SOLEIL:太陽
  • XX (20番) LE JUGEMENT:審判
  • XXI (21番) LE MONDE:世界

※カードネームの次に表示されたかっこ内の表記は現代のフランス語へ修正したものです

以上の大アルカナカードには基本的な並べ方があります。タロットの配置はクライアントの心模様を表すのですが、まず初めに基本のフォーメーションを並べることで、そこからどこへ向かおうとしているのかという指針が暗示されることになります。よって、タロットコーチングを行う際には、最初に大アルカナのすべてのカードを基本の並べ方へ配置する作業を行います。

 著者が推奨する大アルカナの基本の並べ方には二通りあります。まず一つ目は、通常のタロットコーチングを行う際の並べ方であり、二つ目は、魂の成長過程を表す際の並べ方です。タロットは人間の魂の成長過程を示しているものであり、大アルカナの並べ方によって人の心象に多大な影響を与えます。そのように捉えると、大アルカナの並びは即身成仏を目指す密教の曼荼羅と似ています。そこで、二通りの並べ方に象徴的な呼び名をつけたいと思います。

 現実的な問題に対してタロットコーチングを行う際には、「現象界大アルカナ曼荼羅」を形成し、精神的な成長を促すタロットコーチングを行う際には、「精神界大アルカナ曼荼羅」を形成して行います。ちなみに、現象とは人が感覚によってとらえることのできる一切の物事のことです。つまり、現実的な問題には「現象界大アルカナ曼荼羅」、精神的な問題には「精神界大アルカナ曼荼羅」を使用します。

 密教の代表的な曼荼羅に金剛界曼荼羅と胎蔵界曼荼羅の二種類がありますが、これは精神と肉体の両者が共に一体である(金胎理知不二)ということを表しています。タロットにおいても、現実的な側面と精神的な側面にクローズアップして並べ方を変えることで、これから何についてコーチングを行うのかを明確にするメリットがあります。また、行動と精神の統一をはかるためにも、この二通りの基本配置を使いこなす必要があります。

◯現象界大アルカナ曼荼羅

現実の生活は七という周期の中にあります。人間の肉体上にあるチャクラの数も七つあり、一週間も七曜日に設定されています。七で一区切りとして上昇するタロット曼荼羅はこの世の仕組みを表しており、この大アルカナの配置を「現象界大アルカナ曼荼羅」と呼ぶことにします。

大アルカナカードに付された数字はローマ数字ですが、ここでは使い慣れているアラビア数字で表記します。

 「現象界大アルカナ曼荼羅は」0番(数字がない)の愚者から並べますが、その右隣に1番から7番までの7枚を並べます。7番まで並べると1番のカードの上に8番のカードを並べます。さらに8番から14番まで並べると、15番から21番までをその上に重ねます。21枚のカードを全て並べ終わると三段七列の現象界大アルカナ曼荼羅が出来上がります。

一枚だけはみ出している愚者は、魂の旅をするアダム(人間の元型)の象徴です。よって、愚者のカードには数字がなく、曼荼羅システムの中には組み込まれていません。魂は本来自由なものですが、心の成長のためにあえて困難に立ち向かい、どのような危険があるかも省みず社会システム(曼荼羅)の中へと果敢に進もうとしているのが愚者のカードの象徴です。愚者のカードは大アルカナ曼荼羅の中へと誘(いざな)われる主人公(本人あるいはクライアント)の役割を担っています。そして愚者は星を指針として、最後の世界のカードを仰ぎ見ています。つまり、愚者が目指しているのは世界です。愚者から始まり、世界そのものである賢者へと移行することがタロットコーチングを行う目的であり、すべての人にとっての壮大な人生の目的と言えるでしょう。

 現象界大アルカナ曼荼羅の特徴は、第一段目が顕在意識と結びついた「行動」の領域を示しており、第二段目が顕在的な「思考」の部分を示しており、そして第三段目が潜在的な「精神(無意識領域の意図)」を示しています。人はこの三段階の領域によって人生を形成しています。示されたカードが精神領域なのか、思考領域なのか、行動領域なのかということを読み取ることで、どの領域を強化し、どの領域を修正すればいいのかが明確になります。 あるいは、第一段目を人間界、第二段目を天使界(仏界)、第三段目を神界として読み解く方法もあります。これはどの領域、どのような存在からのサポートを必要としているかということがわかります。このように様々な視点から読み解くことで、タロットの意味合いに深みが増します。

精神界大アルカナ曼荼羅

自分自身の心の状態について内観したい場合は、大アルカナカードをピラミッド型に配置します。 現象界大アルカナ曼荼羅と同じように愚者のカードを一番左側に配置し、その横にビラミッドの一番下の段に1番から6番までの6枚を順に並べ、二段目に7番から11番までの5枚、三段目に12番から15番までの4枚、四段目に16番から18番までの3枚、五段目19番と20番のカードを並べ、最後に21番の世界のカードを頂点に置きます。この曼荼羅の特徴としては、ピラミッドの形になるように、上に配置するカードは下の二枚のカードを跨がるように配置することです。これは矛盾する二つのものを融合することによって精神は向上するということを意味しています。人生というのは、自分と対立する者と意見を摺り合わせて、お互いの矛盾点を克服してゆくことで成長してゆくものです。自分自身の精神的向上を図り、困難に立ち向かい、生まれ変わりたいという場合には、この精神界大アルカナ曼荼羅を使ってコーチングするのが有意義でしょう。

【 正位置と逆位置 】

良い悪いではなく、試練であるか否かです。

裏向きのカードを恣意的に選んだとしても、それは相談者の内的心理の発現であり、取り出したカードに偶然ということはありません。それぞれのカードには意味があり、カードの絵柄がそれを象徴しています。心の状態と意味が一致する物理的現象が同時的に起きることをシンクロニシティー(共時性)と言います。シンクロニシティという概念はスイスの精神科医であり、心理学者でもあったカール・グスタフ・ユング氏によって研究が成されました。シンクロニシティーは珍しい現象ではなく、私たちの誰もが日常的にシンクロニシティーを体験しています。

例えば、遠く離れた友人に久しぶりに連絡を取ろうとすると向こうから連絡があったり、ずっと気にしていたことが偶然にテレビで放映されたり、ということはよくあることです。タロットカードリーディングは、シンクロニシティーを逆手に取り、心と共時的に繋がったカードの象徴を読み取ることで心の状態を読み取ろうとするものです。

 恣意的に選んだカードを並べ読み取っていく行為は、シンクロニシティーを利用して自分の心の状態と向き合っているのです。恣意的に選ばれたカードを裏向きの状態からひっくり返すと、上下逆さまになることがあります。無意識にカードを逆さまに引いているのですから、シンクロニシティーの理論からすれば、それには必ず意味があるはずです。

 正位置(上下の向きが正しい状態)は、カードの本来の意味を表しているとされています。他方、逆位置(上下逆さまの状態)はその意味が変質します。正位置、逆位置という捉え方をすると、つい正位置のカードは良い意味として解釈し、逆位置は悪い意味として解釈してしまいますが、起こる現象に良い悪いということはありません。 正位置で出た場合は、カードの象徴のままに読み取るのが良いでしょう。逆位置の場合は、今の状態に対して乗り越えなければならない試練があると解釈します。少し現状を変える努力が必要であるということです。このことから、逆位置の場合の方が試練を乗り越えることで人生が急展開する可能性があるかもしれません。どちらが良いかどうかは実際に行動してみなければ分からないものです。正位置、逆位置という向きだけで一喜一憂する必要はありません。一枚一枚のカードを自分の心と照らし合わせて丁寧に読み取っていく必要があります。

【 第0番 愚者 】

遊行※注

無限の可能性

※注:遊行  仏教の僧侶が布教や修行のために各地を巡り歩くこと

◆キーワード

《正位置》

冒険、移動、探求の始まり、変化への衝動、自由、純粋、楽観的、型にはまらない

《逆位置》

無謀、夢想、夢見がち、愚行、無頓着、軽卒、ドロップアウト、行き当たりばったり

◆愚者の象徴

22枚の大アルカナの中で唯一移動している人物が描かれているのがこの「愚者」のカードです。これから旅が始まるという瞬間を捉えた絵札であり、斜め上を見ていることから、その旅には明確ではないにしろ向かうべき目的地があると推測できます。「数」を持たないことからも、このカードだけは数字というシステムに囚われておらず、自由な状態であることが伺えます。つまりこのカードの主は世の中の秩序から逸脱している状態であることを意味しています。ということは、彼は人間の原初の魂「アダム・カドモン」の象徴であると言えるでしょう。

 派手な衣装を着ているので道化師のようでもありますが、冠を被っているため、高貴な存在でもあるように思われます。衣装には土鈴が取り付けられていますが、土鈴には魔除けの意味もあり、また巡礼の証しともされていいます。この土鈴を象徴的に捉えるなら、彼の輪廻転生の数を示しているのかもしれません。いずれにせよ、彼の身は多くの土鈴によって守られているようです。ところが、一つ地面に落ちている未完成の土鈴もあるようです。

また、派手な装飾である割には衣装の一部は破れており、この人物が無頓着で細かいことは気にしない性格であることが分かります。後ろからは空色の犬がついてきていますが、犬が彼の服を破ったのでしょうか。

犬が空色であるのは、この犬が普通の犬ではなく、象徴的な犬であるということを示しています。この犬が彼の旅の仲間であるのか、彼の旅を邪魔する存在であるのかはまだわかりません。

彼は左手にスプーン上の棒に砂金の入った袋を持っています。砂金の入った袋はこの人物が錬金術師であることも示唆しており、無尽蔵の智慧と繋がっていることを表しています。棒を持つその手には若葉を隠し持っており、大きな可能性が秘められていることを示しています。さらに、右の手には赤い杖を携えており、その杖の先には三つの点のしるしが刻まれています。これは三位一体を象徴しており、彼が何の目的もなく旅立ったのではなく、密教の教えを実践するための巡礼の旅であることを示しています。さらに、杖を持つ右手には卵を隠し持っており、その巡礼が何かを産み出すことを暗示しています。

 彼はボロボロの服を身にまとっているにも関わらず、頭には黄金の冠を被っています。冠は王の象徴であり、愚者のカードネームとなっている「MAT」とは、元々は、チェックメイト(chechmate)のmatであり、チェスにおける詰みを意味することから、彼がただの愚者でないことが分かります。これらの象徴は彼が「トリックスター(愚者を装う何者か)」であることを象徴しており、彼の正体を知ることがタロットの醍醐味であると言えます。

このカードの補足的解説として、地面に生えている草の葉の数が22枚であることが特徴的です。これは大アルカナの数を表しており、彼の進むべき道はもうすでに定まっていることを示しているかのようです。

また、太腿の辺りの傷、ボロボロの服、犬を伴っていることから、この愚者のモデルは聖ロック(ロクス)であろうとされています。聖ロックは、フランスのモンペリエ総督の息子として生まれました。20歳の頃に両親を亡くしたものの、その財産をすべて貧しい人々に与え、ローマに巡礼に出ました。この頃、イタリアではペストが流行しており、多くの人々が治る術もなく苦しんでいたところ、ロックは患者の看護に尽くしました。彼が患者の上に十字架の印をすると、多くの人びとが癒されたとされています。しかしその後、彼自身もペストにかかってしまい、ピアチェンツァの近くの森で死を迎えようとしたところ、犬が食物を持ってきたり、傷をなめたりしたことで病気が治り、その後故郷に戻りました。しかし当時フランスは戦争で分裂していたため、誰も彼がかつてのモンペリエ総督の息子であるとは分からず、スパイとして捕えられ獄死してしまいました。

このように聖ロックのような生き方は愛そのものではありますが、社会的には「愚者」とされてしまいます。愚者のモデルが聖ロックである意味は、この世において「愛そのもの」である行為は、「愚者」の行動となってしまうということを示しているのでしょう。「愛そのもの」でありながら、愚者のようではなく賢者として生きるためにはどうすればいいのでしょうか。 タロットには、愛を体現しつつも愚者ではなく、賢者となるために人が社会の中で学びながら成長してゆくという物語が隠されています。まさにその姿は私たちの魂の元型そのものと言えるでしょう。

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