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◆第8番 正義◆

決断

均衡(バランス)

8番正義

◆キーワード

《正位置》

法則による正義、決断、均衡(バランス)、判断力、調停、厳格、公正、平等、精錬潔白、安定、判決、知恵、諸刃、裁判、裁判官、安定した健康状態

《逆位置》

歪んだ正義、決断できない、優柔不断、不均衡(アンバランス)、執着、極端、不公正、間違った見識、偏見、裁判で不利となる、不安定な健康状態、終始バランスが悪い

◆正義の象徴

第8番のカード「正義」からは霊的段階が一段界上昇し、天使界へと移行します。「正義の」カードに現れるキャラクターは天使界の存在であり、人間と神との仲立ちをする天使です。天使は人間の目には見えませんが、現象界(人間界)のあらゆる面に影響を及ぼしています。

闇と光(陰陽)を表す二本の柱(ヤキンとボアズ)の中央に正面を向いた天使が坐しています。それはこの天使が二元性を超えた存在であることを示しています。彼(天使に性別はありません)は皇帝と教皇の両方を兼ね備えたような冠を戴いています。その冠を支える白い鉢巻をしているのは、彼の考えは清廉潔白であることを表しています。また帽子の中央の丸い象徴は神の目であり、彼は神の目そのものであることを示しています。つまり、その判断は過去から未来までを見通しており、心に偏りなく完全に公正であり、真実であるのです。つまり、彼は人々の行いを裁く裁判官の役割を担っているのです。

この三段に分かれた冠は、彼が預言者、法王(教皇)、王(皇帝)の三つの職務を担っていることを示しています。この三職務を担うことができるのは、唯一キリストのみとされています。キリストとは「羊飼いのように、羊を自分の右に、山羊を左により分ける」ことができる存在とされており、キリストこそが裁判官の役割を担うとされています。

ちなみに、聖書で羊は神の民を象徴し、山羊は悪人を象徴しています。この聖書の記述は、正義が何であるかを神の目から判断するこの第8番の「正義」の天使と重なります。人間界から天使となり、人を公正に判断できるのは正義を担う天使のみということなのかもしれません。その証拠に、彼は左手に天秤を持ち、右手には諸刃の剣を持っています。諸刃の剣と天秤は、裁判の公正さを表すシンボルとして裁判所などの象徴とされています。

さらに、この諸刃の剣と天秤を持つ姿は、ギリシャ神話に登場するアストレアとされています。アストレアは、人間が堕落して欲のままに互いに争い、破滅に向かう中でも最後まで人間に正義を説き続けたという伝説からタロットカードの「正義」のモデルとされています。

アストレアの名は「星の如く輝く者」「星乙女」という意味があり、ホーラ三女神の一柱の中で「正義」を神格化した存在とされています。占星術では「乙女座」となり、彼女の持つ天秤が「天秤座」になったと言われています。

また、正義は四玄徳の一つです。四元徳とは、古代ギリシャから受け継がれた四つの中心的な徳目とされ、知恵、勇気、節制、正義とされています。四元徳は、プラトンがその著書「国家」において国家も個人も共通して持つべき徳目としており、枢要徳(すうようとく)とも呼ばれています。他にも、信仰(敬虔)、希望、愛といった対神徳を加えて七元徳とする説もあり、この天使界の7枚のカードは七元徳を表現しています。つまり、神界と繋がるためには、内面にこの七元徳が必要であるということを示しているのです。

彼が左手に持つ正義の象徴である諸刃の剣は、両方に刃がついているので、振りかざせば相手に打撃を与えますが、こちら側も同じくらいの打撃を受ける可能性があることを表しています。つまり、正義とは相手を自分と同じように考えて判断することであり、相手を敵と見做して裁くことは正義ではないということなのでしょう。

さらに左手には、天秤を持っています。天秤は人間の徳の重さを測ることを目的としていますが、この天秤は彼が持つ紐と繋がってはおらず宙に浮いているようにも見えます。つまり、彼の判断は、物理的、現実的な価値観における平等、公正という概念ではなく、天の法則に基づいて裁判されるということを示しています。

また、彼の法衣には皇帝の服と同じ百合の紋章があることから、その判断は権威に基づいています。歴史家のミシェル・パストローによれば、1300年頃まで百合はキリストを象徴していたが、次第に聖母のシンボルへと変化して、聖母に言及したソロモンの雅歌「lilium inter spinas」(いばらのユリ)と関連付けられるようになりました。

さらに、彼は紫の椅子の上に座っていることから、彼が高貴な存在であることを示しています。紫は人間の頭頂部のチャクラ(サハスラーラチャクラ)の色でもあることから、人間の思考を超えた存在であることも暗示しています。

ということは、このカードが示す正義とは、人間的思考(善悪といった二元的考え方)を超えたところにあるようです。彼は裁判官の役割を担いますが、他人を裁くという概念自体が人間独特の思考であり、彼が実際に他人を裁くことはないのでしょう。人は他者を裁きますが、それは自分を裁くことと同じ効果をもたらします。ですから、相手を裁くのではなく、偏りのない目で相手を観察した結果から自分がどうあるべきかを決断することが本当の正義であると言えるのかもしれません。

どのようなことが起ころうとも、偏ることなく自分の進むべき道をまっすぐに見続ける、それが「正義」であるということを彼は体現しているのです。

◆ペアカード

他の元徳を示すカード:第9番〜14番すべて
他の玉座に座るカード:第2番「斎王」、第3番「女帝」

◆第9番 隠者◆

探求

意識改革をする

9番隠者

◆キーワード

《正位置》

探求、探し物、深い精神性、危機を乗り越える知恵、覚醒、意識改革、秘儀参入、隠遁、錬金術、新しい知識、新しい環境を探す、師、引退、老人、賢人

《逆位置》

知恵・知識がない、調査不足、閉鎖性、危機を乗り越える知恵がない、良い師に巡り会えない、孤独、陰湿、意識改革ができない、消極的、知識偏重で他を受け入れない、頑固、孤立、疑い深い、プライドが高いことによる引きこもり

◆隠者の象徴

ローブに身を包んだ老人が、右手に鍵とランタンを持って何かを探しているように見えます。あるいは、誰かを待っているのでしょうか。ランタン(光明)と共に持つ鍵は、天国へと繋がる秘密の鍵であり、それを誰かに託そうとしているのかもしれません。

隠者が着用するローブには魔法使いの象徴でもあるとんがり帽子がついています。このような円錐形の先に丸い飾り物がついた被り物は、古代エジプトにおけるファラオ(王)だけがかぶることができたプスケントという王冠に似ています。プスケントは下エジプトの冠であるデシュレトと上エジプトの冠であるヘジェトという二つの冠を組み合わされるので二重冠とも呼ばれています。

プンケット
ファラオの王冠
プスケント

この二重冠の内の白いとんがり帽子のような王冠はヘジェトと言い、ハゲタカの女神ネクベトを象徴する上エジプトの支配権を表しているとされています。このヘジェトが、とんがり帽子に似ているのですが、もしかするとこの隠者は古代エジプトの秘儀参入の儀式を伝授する導師であるのかもしれません。なぜなら彼が左手に持つ杖は、赤い蛇のようにも見えます。プンケントの王冠を構成するもう一つの王冠は、デシュレトと言い、下エジプトの支配者がかぶる紅色の冠であり、コブラの女神ウアジェトを象徴しているからです。

この隠者は明らかに古代エジプトのファラオの資格を持つ者を探しているように思えます。ということは、彼は古代エジプトの知恵の神とされるトートの知恵を受け継ぐ者であり、このカードの表題ともなっている錬金術の祖とされるヘルメスの知恵を誰かに伝えようとしているのでしょう。

ギリシャ神話のヘルメス神とエジプトのトート神が融合し、それらの知恵を受け継ぐ人物は、ヘルメス・トリスメギストスと呼ばれています。このタロットカード8番の「隠者」はまさにヘルメス・トリスメギストス※注です。彼のローブの下に本のようなものが見えますが、これは彼が隠し持っている「知恵」を象徴しているのでしょう。つまり、彼は四元徳で言えば「知恵」をもたらす者です。彼はアカシックレコードの管理者でもあります。

先に述べたように、彼が持つ赤い杖は赤い蛇のようにも見えます。赤い蛇の象徴は人間の生命エネルギーや欲望とも関連しており、この人間の生命エネルギーである欲望をコントールすることが精神修行の要でもあります。また、赤い蛇は人間の会陰に潜んでいるとされるクンダリニーエネルギーとも関係しています。このエネルギーのコントロールによって人は覚醒し、知恵を得て、自分の中に智慧があることを知ります。

また、この赤い杖は、ヘルメスの持持であるカドゥケウスの杖でもあります。二匹の蛇は相反するエネルギーの象徴であり、善悪や陰陽といった二元を統合した者だけが持つことができる杖なのです。つまり、この杖は智慧そのものの象徴と言えます。

ちなみに知恵と智慧は異なります。「知恵」とは、学んだことに基づき知識を活用する能力のことを言います。人は経験を積んだり、本を読んだり、学習することで自分の知識を増やしていくことができます。しかし、その知識として取り入れたものをすべて理解し、活用できるとは限りません。物事を理解し、自分の中で整理し、様々なことに応用して適用させる能力のことを知恵と言います。

他方「智慧」は、生来的に正しいことを見極め、最善を行動することができる能力のことを言います。前述の知恵が、学んだ知識などが元になっているのに対し、智慧は、本質的に備わっているものであり、努力なく自然に善を遂行する能力とも言えます。つまり、この隠者は、自分の待つ領域まで生来的智慧によって辿り着ける者を待っているのです。

また、赤い杖を持つ隠者の手は青色をしており、左半身はすでに霊化しているようです。髪も髭も青色であるため、彼はもうすでに光化している存在なのです。そして、まだ霊化していないもう一つの手で、ランタンと天国への鍵を持って誰かを待っています。隠者の待ち人はかつて愚者であった彼なのかもしれません。

隠者のランタンは間違いなく、隣の正義のカードに向けられています。つまり、隠者の持つ智慧の光明と天国への鍵(悟り)の恩恵を授かるのは、今までの人生において自分の内面と向き合い思索と実行を重ね、善悪を統合した道を進むことを決断した人なのでしょう。

※注:ヘルメス・トリスメギストス  ギリシャ神話のヘルメスとエジプト神話のトート神がヘレニズム時代に融合し、ヘルメス・トリスメギストスと称されるようになり、3世紀頃には最高の知恵(智慧)の所有者として崇拝されるようになりました。トリスメギストスとは、三重の知恵という意味です。伝説的な錬金術の書とされるエメラルド碑板(エメラルド・タブレット)やヘルメス文書は、ヘルメス・トリスメギストスの手によるとされています。

◆ペアカード

第0番 愚者:無知に対する知恵、弟子と師匠の関係

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