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◆第13番 名称なし(無我)◆

再生のための死

変質する

七元徳:愛(対神徳)

13番死神

◆キーワード

《正位置》

再生のための死、過去の自分を捨てる、変質、無我、死、再生、変容、断捨離、ゼロからの出発、縁が切れる、異なる分野への門出、劇的な変化、気づきのための病気、信念、カルマの解消

《逆位置》

変化を恐れる、自分を変えられない、執着が強い、強制終了、死への恐怖、カルマの解消ができない、問題を深層に葬る、再生できない、抑圧されたまま、潜在能力が埋もれている

◆番号だけのカードは無我の象徴

ほとんど骸骨と化した存在が鎌を持って何かを刈り取ろうとしています。このカードの特徴は、番号だけがあり、名称がないことです。この逆は「愚者」のカードです。「愚者」のカードには番号はありませんが、名前だけがあります。また、構図も「愚者」のカードと似ています。「愚者」は杖を持ち、13番のカードは鎌を持っています。つまり、この13番のカードは愚者のカードと対(つい)になっているのです。

このほとんど骸骨と化した存在はかつて愚者であったのかもしれません。愚者であった彼は、賢者に至るには自我を放棄することだと気づいたのでしょう。その修行の甲斐あって、愚者の自我は今や骨と皮だけとなっており、彼は無我の境地へと辿り着いたのです。そして、生まれ変わるために新しい体を手に入れ変容しようとしています。刈り取るのは、黒い土の中に埋もれたバラバラとなっている体でしょうか。

頭蓋骨の後頭部には、一見影のようにも見えますが「יהוה (YHWH)」と書かれているようにも見えます。この無我となった頭蓋骨自体が神であるヤーウェの意識そのものを表しています。頭蓋骨は神の智慧そのものの象徴だったのです。

近年、米国コロンビア大学のジェラール・カーセンティ博士らによる研究によって、骨は「記憶力」「筋力」「生殖力」あるいは「若さ」を生み出すメッセージ物質を全身に届けているということが明らかになりました。つまり、骨は単なるカルシウムの棒ではなく、生命の根幹に関わる命令物質を生み出す重大な臓器でもあったのです。

骨は臓器の中でも最も奥にあり、日常の中では骨の本当の働きなど知りようもありません。骨は人間の体を支える根幹の土台であるだけでなく、無意識の命令系統をも担っていたのです。

このようなことは精神的な成長とも関係しているのではないでしょうか。日常における人の意識は雑念に覆われていますが、その粗雑な思考を払った奥に精妙な真の意識が埋没しています。自分の中の本当の意識(真我)に触れるには、日頃の雑念を取り除き無我となったときに、立ち昇り現れるのが真我なのです。

構図が愚者に似ていることから、この13番のカードは死を連想させながらも次へと移行する暗示でもあります。つまり、死は再生のための準備なのです。

サンタムエルテ像

メキシコを中心とする南米地域には、サンタ・ムエルテという死神のような姿の聖母を信じる民間信仰があります。サンタ・ムエルテとは、スペイン語で死の聖女あるいは聖母という意味です。サンタは「聖なる」という意味で、ムエルテは「死」を意味するのですが、死は聖なることとして受け入れられています。サンタ・ムエルテは、死神という恐怖の存在ではなく、過去の自分を変えてくれる救いの神であるのです。

サンタ・ムエルテは、手に球体、天秤、砂時計、ランプなどを持ち、フクロウを伴った姿で描かれます。フクロウは知恵の象徴でもあり、冥府からの死者ともされています。このサンタ・ムエルテの持物は、これまでのタロットカードのキャラクターの持物でもあり、このサンタ・ムエルテが全てを統括する存在であることを表しています。今までの全ての道程がこの死神の出現によって結実し、過去の自分が死を迎えることで、新たな人生へと向かう再生・復活のイニシエーションなのです。彼が生まれ変わるために死を決断したのは、人間としての欲望を捨てて愛に生きるためです。それゆえに、13番のカードの元徳は、愛です。愛(エロス)と死(タナトス)は表裏一体とされていますが、捨身の精神こそが愛そのものなのかもしれません。

彼の無我の修行が結実して体のほとんどは骸骨のようになっていますが、所々青色に変色しています。青色は霊化しているということを意味しているからです。関節部分が赤いのは、霊的なエネルギーポイントを示しています。足元にバラバラに散らばっている肉片のようなものは、彼のかつての体なのでしょう。

黒い土は無意識の象徴でもあります。土(無意識下)に埋められた頭部は王冠を被っていることから、彼の本当の姿は王であり、王女であったのかもしれません。彼は再び王である自分に生まれ変わるために、一度死ぬ必要があるのです。

また、土の上には骨で作られた笛が落ちています。この笛には七つの穴が空いているので、1オクターブの音域の音を出すことができるようです。骨から何らかの音(周波数)が発せられているのかもしれません。内なる声を聴くという言葉がありますが、それは骨からの音を聞くということなのではないでしょうか。さらには、音によって人々は目覚めることができるということを示しているのかも知れません。

骨の笛が真実を語るという「歌う骨」というグリム童話があります。因果応報を説いた童話でありますが、骨の笛が真実を語るという点においてこの13番のカードとの関連があるようです。グリム童話の「歌う骨」の象徴から、土に埋められているのは、かつて殺され、バラバラにされた王なのでしょう。その亡者の声を聴くことが再生へとつながる鍵なのです。骨は肉体の土台であり、肉体を動かす命令系統の中枢と言えます。内なる声というのは、骨から発せられる音を聞くことにあるのかもしれません。

13番死神ライダー版

キリスト教的神話によれば、13番目の天使はサタンとされており、死と恐怖を連想させます。ウエイト・ライダー版のタロットカードの13番は、ヨハネの黙示録の第四の騎士がモデルとして登場しています。死神が白い馬に乗り、花の紋章の黒い旗を手に持っています。白い馬の鼻先には、法王が挨拶をしているので、白馬に乗った死神は吉兆であるように描かれています。ということは、この白馬に乗る死神の騎士を見た者には確実に死が訪れますが、それは祝福すべきことなのです。

その証拠に二つの塔の間から太陽が輝いているのが見えます。死は終わりではなく、永遠の生へと向かう魂の解放を意味しているのでしょう。白馬の死神と出会った者には真の輝かしい未来が待っているのです。

このような象徴を読み取ると、死神は過去の自分と決別し、本当の自分へと生まれ変わるための救いの天使とも言えます。前のカードである12番逆さ吊りの修行によって、物事の価値観が逆転し、死は恐怖ではなく救いであるということに気がついたのです。新しい自分に生まれ変わるというのは、同時に過去の自分の死を意味しています。過去の自分の死によって、今までの自分と見た目は変わらないのかもしれませんが、確実に質(中身)は変化しています。人生に変化をもたらすには、まずは自分の心を変質させることが必要なのです。

◆ペアカード

第0番 愚者:構図が同じ
第15番 悪魔:無意識を象徴する黒い土地
他の元徳を示すカード

◆第14番 節制◆

変容

役割に徹する

七元徳:節制

14番節制

◆キーワード

《正位置》

変容、救済、智慧の伝授、相承、役割がわかる、集中、ヒーリング、中庸、浄化、法水写瓶、無駄がない、経済的、無理のない節約、透視能力、水瓶座、生命の水、天使との一体化

《逆位置》

役割がわからない、助けが来ない、恵みを受け入れない、報われない、不摂生、無駄遣いが多い、惰性で生きている、創意工夫が足りない、極端な状態、貯蓄できない状態、集中力がない、積極と受動のアンバランス

◆節制の象徴

14番のカードに描かれているのは翼を持つ天使です。無我の境地へと至った者は、天と地の媒介者である天使として復活・再生するのです。

そして、両手に瓶を持って、一方から他方へと一滴も液体を漏らさないように移し変えています。瓶(かめ)から瓶へと一滴もこぼさないように写す喩えは、法水写瓶(ほっすいしゃびょう)として知られています。

法水写瓶は、師匠から弟子へ教えを少しも漏らすことなく正しく伝えることを意味しています。法水は清浄な妙法を水にたとえ、写瓶は血脈相承を表しているとされています。伝承する人が変わっても法は不変であり、容器が変わっても中の水は不変であることを表しているとされています。法水写瓶(血脈相承)によって、次代の師となるべき者が決定されるのです。人が未熟なうちは、あれもしたいこれもしたいと夢見がちですが、成熟するにつれ自分の個性に応じた役目を認識し始めます。自我による煩悩から目覚めることによって、人は自分の本来の役目に気づくことができるのです。その証拠に、天使は黄金の瞳で左側を見ています。自我の死を迎え、自分の本当の役割に気づいた者を待っているのでしょう。かつて自分は何者であろうかと多くの夢を抱えていた愚者としての旅人は、今や天使として再生しようとしているのです。

自我(煩悩)を滅するというのは、煩悩に溺れることなく程よくバランスを保つことであり、決して禁欲ということではありません。欲望を理性によって統制のとれた状態を保つことを節制と言います。仏教では「不放逸(ふほういつ)=欲望に流されない心」と呼ばれています。この天使に出会うためには、節制(不放逸)であることが必要なのです。

キリストの五つの傷の絵
キリストの五つの傷の絵

また、この天使は頭頂部に赤い五弁の花をつけています。キリスト教においては赤い薔薇は、キリストあるいは殉教者の五つの傷から流れ出た血を象徴する花とされています。また、カトリック聖人伝によると「聖母マリアの清らかで汚れのない愛を白ユリにたとえ、マリア・マグダレナの痛悔した血の涙で前非(過去に犯した過ち)を洗い流した愛は真紅の薔薇にたとえられる」と記されています。つまり、この天使は過去を洗い流し、罪を浄化した者に癒しを与える存在であり、救済者なのです。

赤い五弁の薔薇は五芒星をも表しており、五芒星は一筆書きすると元の点に戻ることから、永遠に終わらない循環を表しています。さらに水瓶を持つ天使は水瓶座の時代の到来を告げており、肉体のくびきによって苦しんでいた人々が救われることを暗示しています。

また、瓶の中には甘露が入っており、それを飲む者には永遠の生命が与えられるのです。同時に、五芒星は五行に象徴されるような五つの気を浄化させる魔除けの意味もあるため、治癒の象徴ともされています。五芒星は人間が手を広げた大の字型も表すため、宇宙意識と繋がった小宇宙としての人間の象徴ともされています。

天使の足元の大地には縦に割ったリンゴのようなものが落ちています。リンゴは横に割ると五角形が表れることから「地の秘密」「神の言葉」とされています。また、縦に割ると女性器に似ていることから聖母の子宮を表すとも言われています。

また、黄金のリンゴは、ヴィーナスの象徴ともされ、北欧神話では神の不老不死の源とされています。この天使が立っている場所は、もしかするとアダムとイブが追放されたエデンの園であるのかもしれません。人生の旅人はようやくエデンの園へと戻って来たのです。

この天使は、赤と青の衣を着用していますが、これは陰陽の和合が成されたことを意味しています。また、赤はキリストの色、青は聖母の色とされていることから、永遠に分かつことのない聖母子の姿を示しているとも言えます。

スカートの裾は、二匹の蛇が絡まっているようにも思えます。これは永遠の生命を表し、ウロボロスの蛇であり、二匹の蛇、つまり善悪の葛藤を統合することによって陰陽和合が成されたことを示しています。今や善も悪もなく、共に金色に輝いています。さらに、天使が履く靴は紫色です。靴は地上を歩く履物ですが、この天使が歩くだけで地上は癒されていくのでしょう。

天使の胸には四つの三角形の上に一部が欠けた円の模様があります。四つの三角形は運命の輪の頂点に君臨していたスフィンクスが被っている王冠と似ています。これは地上の支配権を表しています。しかし地上の支配権の上にさらに君臨する太陽があります。しかしこの太陽は完全なる円ではなく、一部が欠けています。これは心理学ではゲシュタルトの「欠けた円」として知られています。ゲシュタルトとはドイツ語で「形」という意味ですが、ドイツの心理学者フレデリック・パールズがゲシュタルト療法で提唱した呼び方です。ゲシュタルトの「欠けた円」とは、問題解決を図る際に、できていない、不完全という特定のマイナスな部分にではなく、できている部分、満たされている部分を含めた全体として一個体である人間を捉えていこうとする考え方を言います。ゲシュタルトの「欠けた円」は、欠けているところばかり気にせずに、満たされているところに目を向けようとする考え方のことですが、この天使の胸の欠けた円は、この世界の欠けた部分を認めた上で愛しているということを意味しているのではないでしょうか。あるいは、欠けているからこそ進化できるという考え方によって、あえて世の中を完全にはしていないという象徴でもあるのです。

このカードは節制という元徳を表すものですが、節制によって自制心を養った者は、大抵他人にも厳しくなりがちです。しかし他人の欠点をも受け入れ、自分の持っている能力を相手に施していくことが人の本来の役割であることを示しています。そして人は不完全なものを認め、愛することによって完全な者となり得るということを示しています。

今や天使として生まれ変わった人生の旅人は、心の内側では天国へ帰還したのですが、まだ不完全である人の世を見て、不完全な世界を完全に導いていくことが自分の役割だと気づいたのです。自我の夢から覚めて、自分の本来の役目を悟ったとき、高慢になったり解放的になるのではなく、むしろ自分に厳しく、謙虚になり、洗練された精神状態となるということなのでしょう。七元徳を示すカードの最後が節制という意味は、そのような節制的で謙虚な態度こそが、自分の本当の役目を悟った証拠であるということを示しています。そして、いずれそのような心の変化が外界にも現れ、大きな変容へと繋がっていくのでしょう。

◆ペアカード

第3番 女帝:大地の蛇
第10番 運命の輪:スフィンクスの王冠と天使の胸の文様
第17番 星:二つの水瓶
他の元徳を示すカード

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